sekiei38をつくったときの話
梨(@2_4kbd)と申します。 2019年7月にオリジナルのキーボードを設計しました。そのときの思い出話をします。
sekiei38とは
- 一体型
- treadstone配列
- 横18mm・縦17mmピッチの Kailh Choc スイッチ専用設計
- 6列目なし38キー
- Kailhスイッチソケット対応
- レザーカバーによる面接地
頒布していました→ https://2-4kbd.booth.pm/items/1479069
Choc版Treadstone
sekiei38はTreadstoneシリーズをパクってから着想を得て設計しました。
Treadstone48とNaked48LEDを普段使いしていた頃、
- Treadstone48はTとYが近いが全体的に運指がバタバタする
- Naked48LEDはピッチが狭くて楽に打てるが格子配列ゆえにTとYが遠い
という感想を持ち、両者の良いとこ取りをしたキーボードが欲しいと考えました。
Treadstone48を作ってみた | キオクノロンダリング
自作キーボードキット『Naked48LED』を作ったよ! - 自作キーボード温泉街の歩き方
Treadstone配列のすばらしさはmarksardさんのブログ記事を読んでいただければ分かると思います。
メンブレンキーボードの多くや、Cherry MX スイッチ採用のメカニカルキーボードはキーピッチが縦横19.05mmとなっています。 対してNaked48LEDのピッチは 横18mm x 縦17mm です。Naked48LEDは Cherry MX スイッチではなく Kailh Choc スイッチを採用しており、Kailhが出しているChocスイッチ用純正キーキャップの寸法に合わせたピッチに設計されています。 運指を楽にする観点では特に縦のピッチが重要になりますが、縦のピッチは両者でおよそ2mmもの差があります。実際使っていてもChocのピッチは運指が非常に楽でした。
というわけで Choc 18mm x 17mm ピッチのTreadstoneが欲しくなったのですが、無かったので自分で作りました。
手の角度と物理配列
我流の打ち方とTreadstone配列の親和性
私は普段、折れ曲がっていない一体型のキーボードを使う際、キーキャップの向きに対してやや斜めに手を置いて打鍵しています。 手を軽く開いて、小指と人差し指をそれぞれQキー・Tキーに触れ、そのまま手首を机に下ろします。 そうすると中指・薬指・小指がきれいにホームポジションに乗っていい感じに打てるのです。 また一体型のデメリットとして言及されがちな、腕と肩が窮屈な姿勢になる点も、この打ち方であればある程度軽減できます。
ただし、人差し指だけは他の指より負担がかかってしまいます。ホームポジションに置いた時点で結構指が伸びていて、さらにTキーとYキーは斜めに手を置いてるせいでより遠くなってしまっています。
このような打ち方をしているので、Treadstone配列は自分に合ったすばらしい配列でした。 Treadstone配列は格子配列をベースに、そこからずれを加えて人差し指にやさしくした配列です。人差し指に負担が偏っている先述の打ち方にとてもよく噛み合っています。
さらにsekieiでは、ずれ幅を1/3Uにしています。距離で言うと、
- MXの1/4Uずれ → 4.75mmずれ
- Chocの1/4Uずれ → 4.5mmずれ
- Chocの1/3Uずれ → 6.0mmずれ
となります。MXの1/4Uとは2.75mmもの差があります。実際使っていて人差し指が快適なので正解だったなと思います。
デメリットとしてはZキーが遠くなりすぎたことです。小指は可動範囲が狭いのでより遠く感じます。Zの行に関しては、1/4Uずれのままか、もしくはずれを無しにした方が打ちやすいかもしれません。
親指キーの位置
手を斜めに置く打ち方は、親指キーの位置にも関係します。
Naked48LEDやHelix、ほとんどのColumn-Staggerの自作キーボードでは、Gキー・Hキーより内側に親指キーが配置されています(画像の赤のキー)。 これはおそらくですが、キーキャップの向きに対してまっすぐ手を置く場合に使うキーだと思います。
手を斜めにすると、赤のキーに親指が届きにくくなります。
打ちにくい場所にキーがあってもうれしくないですし、ここに置くと外形が大きくなってしまいます。といったかんじでsekieiの親指キーの位置が決定しました。
6列目なし、親指8キー
10人いたら10通りのキーマップがあります。ひとそれぞれ、キーマップそれぞれ。 特にアルファベット以外のキーは、人によってどこに配置するか違いが大きく出ます。 「Ctrlは絶対に小指で打ちたい」「Shiftは親指にしたい」などなど。 自分の場合、「絶対に小指で打ちたいModキー」というものがなかったので、sekieiは6列目をなしにして外形を小さくしました。 小さいキーボードはかわいいのです。
6列目がないので3x10キー部分(アルファベット+記号4キー)以外はすべて親指行に置くことになります。 シンプルに3x10に一行足して親指行10キー・全体40キーとしてもよかったのですが、限界までキー数を減らしたくなって、親指キーの必要数はどれくらいか考えました。
Gherkinなどの30キー前後しかないキーボードはModキーを単独で用意する余裕はないため、Mod-Tap等を利用してアルファベットキーにModキーを兼任させたりします。 私もしばらくMod-Tapを練習したりしたのですが、どうしても慣れることができず諦めました。 Mod-Tap設定したキーの単押し時に入力が若干遅延したり、文字打ち中にModが暴発することがあったり、、、判定時間の設定を突き詰めていけばまた違うのかもしれませんが、、、。
なのでModキーはすべて単独で用意します。 逆に、単押しで機能するキーはすべて3x10エリアの裏レイヤに追いやります。 ひとつだけ例外として、Spaceキーは親指で打つのが身体に染みついてしまっていて動かせなかったので親指に割り当てます。 よって親指行に必要なキーは以下になりました。
- Space
- Shift
- Ctrl
- Alt
- Win
- Raise(レイヤキー)
- Lower(レイヤキー)
左右対称にするためこれにプラス1キーして合計8キーを親指行のキー数としました。外形もすっきりしていいですね。
キーボードの接地はゴム足だけじゃない
sekieiにはフェイクレザー(合皮)のカバーを付属しており、これをボトムプレートに包むように貼り付けて使います。一般的なキーボードの場合、ゴムの滑り止めかチルト脚が4隅に付いていてこれで接地しますが、点のみで接地するよりも底面全体で接地できるとうれしいことが多いんじゃないか、というのが私の考えです。
滑らせて位置調整
机の上でキーボードを打ちやすい位置まで動かすことが多々あると思いますが、ゴム足だとグリップが効きすぎて一度持ち上げないと動きません。 合皮の面接地であれば、手で押して滑らせて楽に位置調整することができます。 キーボード底面と机の間の摩擦がちょうどいいことが前提ですが、たとえばsekieiの合皮カバーと木の机だと、いい具合に滑っていい具合にグリップ力があります。タイピング時もよほどドタバタ打たない限りは勝手に動いたりはしません。
座る姿勢が頻繁に変わる方にとってはこの利点は大きいと思います。浅く座ったり深く座ったりしていると机の上での手の位置も変わるので。自分がそうなのですが。
ちなみに合皮以外に牛さんの本革も試してみたのですが、やや滑りすぎな印象です。打てるには打てますが。 合皮の表面は樹脂でややゴムっぽいのに対して、本革の銀面はつるつるなのでその違いが出ました。 摩擦には重さも関わるので、キーボードの重量が増せば本革でもいい感じになるかもしれません。
らくらく尊師スタイル
簡単に尊師スタイルができるのが面接地の最大の魅力だと思います。
ラップトップPCに自前のキーボード乗せて使いたい場合、アクリルプレートで橋を設けるなどしてビルドインキーボードのキーに重みがかからないようにする必要があります。
面接地であれば、そのまま乗せて使えます。 面接地でもキーの上に乗せてるのは変わらないんだから誤入力されちゃいそうだ、と思われるかもしれませんが、これが全然そんなことはないのです。普通に使えます。
この技は、Yukata-Coverを装着したNaked48LEDをラップトップに乗せて使っていた時に思いつきました。Naked48LEDはふたを畳むとゴム足接地ですが、畳まずに投げ出すと面接地ができます。オリジナルのキーボードを作るときはこれを再現したいなと考えていました。
セクションと関係ない話ですが、sekieiがProMicroを中心に置いている理由もNakedシリーズと同じです(ケーブルの左右両出し対応、キーの左右分割配置で窮屈さを軽減)。sekieiはTreadstoneシリーズとNakedシリーズのキメラだなぁと...。パクってばかりともいう。
おわりに
電子工作歴イコール自作キーボード歴の本物の素人なのですが、半年くらいでオリジナルのキーボードを生み出すことができました。 自作キーボード沼は道がよく整備されています。 sekieiはキーボードの設計としては何も目新しいことはしておらず、ごくシンプルなつくりです。 シンプルですが、個人的なこだわりの詰まったすてきなアイテムになりました。どこまでも Only for me って感じでとても満足しています。
完成してから半年以上経過し、天キーvol3などのイベントを経て、今はまた新しいキーボードを設計しています。
ケース到着してやっと外観が完成!
— 梨 (@2_4kbd) 2020年1月29日
おもちゃみたいでかわいい
15x14mmピッチキーボード
tsubute と名付けました pic.twitter.com/vBzTls3PUF
Kailh CPG1232 という寸法の小さいメカニカルキースイッチを使用して、MXやChocには実現できない狭いピッチのキーボードをつくろうとしています。
まだ課題が残っていますが、近いうちに完成させたいです。
(2020/05/12 追記) 完成しました → https://nashi-kbd.hatenablog.com/entry/2020/05/12/203906
この記事はsekiei38で書きました